任意後見制度とは?認知症に備える手続きの流れと費用・デメリットを専門家が解説

「認知症になったら、銀行口座が使えなくなると聞いて…」

最近、こうした不安を抱えてご相談にいらっしゃる方が増えています。
特に、おひとり様や、頼れる身内が近くにいない方からのご相談は少なくありません。

認知症への備えは、元気なうちに動き出すことが何より大切です。
今回は「任意後見制度」について、制度の仕組みから手続きの流れ・費用・注意点まで、順を追って解説します。

この記事でわかること

  • 任意後見と法定後見の違い
  • 任意後見でできること・できないこと
  • 手続きの流れと費用の目安
  • デメリットと、家族信託との使い分け
  • おひとり様に有効な「3点セット」の考え方

「任意後見」と「法定後見」は何が違うの?

成年後見制度には、大きく分けて2種類あります。

法定後見は、すでに判断能力が低下した方を対象に、家庭裁判所が後見人を選ぶ制度です。
一方、任意後見は、まだ判断能力があるうちに、自分で信頼できる人を選んで契約しておく制度です。

最大の違いは「誰が・誰を・いつ選ぶか」という点にあります。

比較項目 任意後見 法定後見
後見人の選び方 自分で選ぶ(契約) 家庭裁判所が選任
開始のタイミング 判断能力低下後に申立て 判断能力低下後に申立て
契約内容の自由度 高い(希望を盛り込める) 低い(裁判所が決定)
対象者 判断能力がある方 判断能力が低下した方
監督機関 任意後見監督人(必須) 家庭裁判所

法定後見は、認知症が進んだ後の「緊急の手段」として機能します。
ただし、後見人を自分で選べないため、希望どおりにならないケースもあります

💡 任意後見は、元気なうちに自分の意思を契約に反映できる点が大きなメリットです。

任意後見で「できること」と「できないこと」

任意後見人ができること

  • 預貯金の管理・引き出し
  • 不動産の管理・売却(契約内容による)
  • 介護サービスや施設入所の契約
  • 医療費の支払い・入院手続きのサポート
  • 各種行政手続きの代理

任意後見人にできないこと

  • 本人の身体への強制(入院させるなど)
  • 食事・入浴などの直接的な介護行為
  • 遺言書の作成代理

⚠️ ポイント:「財産の管理・手続きの代理」は任せられますが、身体への直接的な介入はできません
この点は、制度を利用する前に理解しておく必要があります。

手続きの流れ|いつ・どこで・何をすればいい?

任意後見は、以下の流れで進めます。

STEP 1|後見人候補者を決める

信頼できる家族・友人・専門家(行政書士など)の中から選びます。
誰に任せるか」が、この制度の核心です。

STEP 2|契約内容を決める

財産管理の範囲・療養看護の内容など、具体的に取り決めます。
ここが曖昧だと、いざというときに動けなくなります

STEP 3|公証役場で公正証書を作成する

公証人(こうしょうにん)の前で契約を締結します。
これが「任意後見契約書」となり、法的な効力を持ちます。

STEP 4|判断能力が低下したら家庭裁判所へ申立て

家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任し、後見がスタートします。

⚠️ 注意:契約を結んだだけでは後見は始まりません。
判断能力が低下した後に、家庭裁判所への申立てが必要になります。
この申立てを「誰が・いつ行うか」を、あらかじめ決めておくことが大切です。

費用はどれくらいかかるの?

任意後見にかかる費用は、大きく「初期費用」と「継続費用」に分かれます。

費用の種類 目安
公正証書作成手数料 約1万1,000円〜(財産額による)
登記手数料 約2,600円
任意後見監督人の報酬 月額1〜3万円程度(家庭裁判所が決定)
専門家(行政書士等)への相談・作成費用 事務所により異なる

特に見落としがちなのが、任意後見監督人への報酬です。

💡 任意後見監督人とは?
任意後見人が適切に職務を行っているかを確認する役割を担う人のことです。
家庭裁判所が選任し、報酬は本人の財産から毎月支払われます

財産が少ない方にとっては、この継続費用が一定の負担になることがあります。
制度を選ぶ際は、費用面も含めて検討することをお勧めします。

デメリットと注意点|家族信託との違いも含めて

主なデメリット

  • 任意後見監督人の費用が毎月発生する(財産規模によっては負担感がある)
  • 後見開始後の内容変更が難しい(原則として新たな契約が必要)
  • 死後の手続きはカバーされない(葬儀・納骨等は「死後事務委任契約」を別途締結)

家族信託との使い分け

柔軟な財産管理や資産運用を希望するなら、「家族信託」が向いている場合もあります。

ただし、家族信託には「療養看護の代理権」がありません。
そのため、任意後見と家族信託を組み合わせて活用するケースも少なくありません。

💡 どちらが適しているかは、財産の規模・家族構成・希望する管理方法によって異なります。
個別の状況を確認したうえで判断することが大切です。

ケーススタディ|おひとり様Aさん(68歳)の場合

Aさんは独身で子どもがなく、兄弟も遠方に住んでいます。

最近、物忘れが気になり始め「もし認知症になったら、誰が手続きしてくれるのか」と不安を感じていました。

行政書士に相談した結果、甥(おい)を任意後見人候補として任意後見契約を締結
あわせて死後事務委任契約と遺言書も作成し、万が一の際の備えをトータルで整えました。

おひとり様の終活では、以下の「3点セット」が特に有効です。

  • 任意後見契約(財産管理・介護手続きの備え)
  • 死後事務委任契約(葬儀・納骨・各種手続きの備え)
  • 遺言書(財産の行き先を決める)

💡 この「3点セット」を組み合わせることで、生前から死後までの備えをひとつながりで整えることができます。

まとめ|早めに動き出すことが、一番の安心につながります

任意後見制度は、判断能力があるうちにしか利用できない制度です。

「まだ元気だから大丈夫」という段階こそ、準備を始めるタイミングです。
契約内容をしっかり作り込んでおくことで、いざというときに慌てずに済みます。

また、任意後見は「公正証書を作れば終わり」ではありません。
後見開始の申立てや、家族信託・遺言との組み合わせなど、全体像を見据えた設計が大切です。

🔷 こんな方は、一度ご相談ください

  • 認知症になったときの財産管理が不安な方
  • おひとり様・子どものいない方
  • 自分で後見人を選んでおきたい方
  • 任意後見・遺言・死後事務委任をまとめて整理したい方

当事務所では、任意後見契約の作成から公証役場との手続きサポートまで、個別の状況に合わせてご対応しています。
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※本記事は2025年7月時点の法令・制度に基づいています。制度は改正される場合がありますので、最新情報は専門家にご確認ください。