遺言書はいつ作るべき?家族に迷惑をかけないための判断基準

今日はゴールデンウィークの真っ只中ですが、事務所で仕事をしています。

外はよく晴れていて、仙台の街もどこかのんびりした空気です。こういう連休中は、遠方に住む子どもさんが実家に帰省されるタイミングでもあります。久しぶりに顔を合わせると、親御さんの様子が気になったり、ふと「将来のこと」が頭をよぎったりする方も多いのではないでしょうか。

帰省の話が出たついでに、というわけではありませんが、今日は「遺言書をいつ作るか」について書いてみようと思います。「縁起でもない」と思われるかもしれませんが、これが家族への一番の備えになることも多いのです。

遺言書は「元気なうち」に作るのが正解です

「遺言書なんて、まだ早い」——そう思っていませんか?

遺言書を作る最善のタイミングは、判断能力がしっかりしている今この瞬間です。

「うちは財産も少ないし」「子どもたちは仲がいいから大丈夫」。そんな声を日々の相談業務でよくお聞きします。しかし行政書士として多くの相続案件に関わってきて痛感するのは、遺言書がなかったために家族が大変な思いをするケースが、想像以上に多いということです。

難しい法律の話よりも、「あなたとご家族が困らないために何が必要か」という視点でお読みいただけると幸いです。

こんな不安を感じている方へ

まず、この記事を読んでいるあなたがどのような状況にあるか、確認してみましょう。

こんな方に読んでほしい記事です

  • 子どもが遠方(県外)に住んでいて、相続のときに負担をかけないか心配
  • 配偶者と二人暮らしで、自分が先に亡くなったときの手続きが不安
  • 相続で家族がもめるのだけは避けたい
  • 認知症になる前に、何か手を打っておくべきか悩んでいる
  • そもそも遺言書が自分に必要かどうかわからない

一つでも当てはまるなら、この記事はあなたのために書かれています。「まだ早い」と思っているうちにタイミングを逃してしまう方が多いのも事実です。専門家として、そのことが残念でなりません。

遺言書がないと、家族にこれだけの負担がかかります

遺言書の必要性を理解するために、まず「遺言書がない場合に何が起きるか」を押さえておきましょう。

遺産分割協議とは

遺言書がない状態で相続が発生すると、残された家族はまず「遺産分割協議」を行わなければなりません。相続人全員が話し合って、誰が何を引き継ぐかを決める手続きです(民法第907条)。

相続人全員の合意が必要です。一人でも反対・音信不通・判断能力を失っている場合は、家庭裁判所の調停や審判が必要になることもあります。

実際にかかる手間と時間

具体的にはどのような作業が発生するのでしょうか。

相続発生後の主な手続き一覧

  1. 戸籍の収集(出生から死亡まで全て)
    転籍を繰り返した方は複数の市区町村への請求が必要。郵送対応で1〜2ヶ月かかることも。
  2. 遺産分割協議書の作成(相続人全員の署名・実印が必要)
    子どもが県外・海外にいる場合は書類の郵送往復が発生し、手間と時間がかかる。
  3. 不動産の相続登記(2024年4月から義務化)
    法務局への申請が必要。相続人全員の書類が揃わないと手続きが進まない。
  4. 預貯金口座の解約・名義変更
    銀行ごとに必要書類が異なり、窓口対応が複数回必要になる場合もある。
  5. 相続人間の連絡調整
    子どもが複数いる場合、全員との意見調整が必要。関係が複雑だとさらに難航することも。

遺言書があれば、これらの多くを大幅に簡略化できます。特に公正証書遺言があれば、遺産分割協議そのものが不要になるケースが多く、子どもたちの負担を根本から減らすことができます。

遺言書イメージ

遺言書の種類とそれぞれの特徴

遺言書には法律上いくつかの種類があります(民法第967条以下)。ここでは実務でよく使われる2種類を中心に説明します。

自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)

遺言者本人が全文・日付・氏名を自書(手書き)し、押印する遺言書です。費用はほとんどかかりませんが、書き方に厳格なルールがあり、一箇所でも不備があると無効になるリスクがあります。財産目録部分はパソコン作成も認められています(民法第968条第2項)。

なお、2020年から法務局での保管制度(自筆証書遺言書保管制度)が始まり、法務局に預けることで紛失・改ざんのリスクを軽減し、検認手続きも不要になります。

公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)

公証人が遺言者の意思を聴取した上で作成する遺言書です。公証役場で作成し、原本は公証役場に保管されます。費用はかかりますが、無効になるリスクが極めて低く、相続手続きもスムーズです。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

比較項目 自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 自分で手書き 公証人が作成
費用 ほぼ無料 数万円程度
確実性 不備があると無効のリスク 無効リスクが極めて低い
検認手続き 必要(法務局保管は除く) 不要
保管 自己管理(紛失・改ざんリスク) 公証役場に原本保管
証人 不要 2名必要
家族の手続きの簡易さ △(手間がかかる場合あり) ◎(スムーズ)

家族への負担を最小化したい方には、公正証書遺言を選ばれる方が多いです。費用はかかりますが、それ以上に家族が助かる——これが正直なところです。

よくある誤解・注意点

誤解①「財産が少ないから遺言書は必要ない」

財産の多い少ないは、トラブルの有無に直結しません。むしろ「自宅の不動産しかない」というケースこそ揉めやすい傾向にあります。不動産は「誰が住み続けるか」「売って分けるか」で意見が割れることがあり、遺言書なしでは話し合いが長引きがちです。

誤解②「配偶者がいれば子どもは関係ない」

配偶者がいても、子どもも法定相続人です(民法第900条)。配偶者と子ども全員で遺産分割協議をしなければならないケースが多く、子どもが遠方に住んでいると調整が大変になります。

誤解③「認知症になってから作れば間に合う」

⚠ 要注意:これが最も重大な誤解です

遺言書は、作成時に「意思能力(判断能力)」があることが必要です(民法第963条)。

認知症が進んだ後に作成した遺言書は、後から「無効だ」と争われるリスクがあります。

「そのうち作ろう」と思っているうちに、法的に有効な遺言書が作れなくなってしまった——そのような相談を、何度も受けてきました。

誤解④「子どもが仲がいいからもめない」

「うちの子どもたちは仲がいいから大丈夫」。そうおっしゃる方は非常に多いです。しかし相続は財産が絡む話です。普段は良好な関係でも、いざ手続きとなると意見が食い違うことは珍しくありません。遺言書があれば、そもそも話し合い自体が不要になる部分が多くなります。

ケーススタディ:県外の子どもへの負担を大幅に減らしたAさんの場合

【Aさんのプロフィール】

  • 70代男性、妻と二人暮らし(仙台市内)
  • 子ども2人:長男(東京在住)、長女(大阪在住)
  • 財産:自宅の土地・建物+預貯金
  • 「自分が亡くなったとき、子どもたちに迷惑をかけたくない」と考えていた

遺言書がなかった場合に起きえたこと

  • 妻・長男・長女の3者による遺産分割協議が必要
  • 出生から死亡までの戸籍を複数市区町村に郵送請求(1〜2ヶ月かかる可能性)
  • 自宅不動産の扱いをめぐる意見調整(誰が住む?売る?)
  • 書類が揃うまで銀行口座が実質的に凍結された状態に
  • 長男・長女がそれぞれ仕事を休んで複数回の手続きに時間を割く必要がある

公正証書遺言を作成した結果

  • 「自宅は妻に、預貯金は妻と子どもで○○の割合で」と明確に記載
  • 遺産分割協議が不要になり、子どもたちの負担が大幅に軽減
  • 検認も不要で手続きがスムーズに完了
  • 長男から「お父さんが早めに動いてくれて本当に助かった」と感謝の言葉が

Aさんは後日、「こんなに家族が楽になるなら、もっと早く作っておけばよかった」とおっしゃっていました。遺言書は「縁起でもない」ものではなく、家族への最大の思いやりです。

一人で抱え込まなくていいと思っていただくために

遺言書の作成は、法律上は自分で行うことができます。ただし実務では、次のような点でつまずく方が少なくありません。

  • 何を・どう書けばいいかわからない
  • 書き方の不備で遺言書が無効にならないか不安
  • 公証役場とのやり取りや事前確認の方法がわからない
  • 財産の棚卸しから一緒に整理してほしい
  • 相続人の関係が複雑で、揉めないための配慮が必要

行政書士がサポートできること

  • 財産の全体像の整理と相続人の確認
  • 遺言内容の法的チェックと最適な記載方法のアドバイス
  • 公証役場との事前折衝・証人の手配
  • 付言事項(家族へのメッセージ)の作成サポート
  • 作成後の財産管理や見直しのご相談

「専門家に頼むのは大げさかな」と思う必要はありません。費用面でも弁護士に依頼するよりも抑えられるケースが多く、何より「ちゃんとした遺言書ができた」という安心感は、何物にも代えがたいものです。

遺言書は、あなたの「家族への最後のプレゼント」かもしれません。一人で悩まず、まずは気軽に話を聞かせてください。

親子が遺言について相談している

今日から始めてほしい3つのこと

最後に、今日からできることをご提案します。

「判断能力がある元気なうちが、最善のタイミング」

「まだ早い」と感じているその時期こそが、最も有効な遺言書を作れる時期です。

  1. 自分の財産を書き出してみる
    預貯金・不動産・保険・株式など、何があるかを一覧にしましょう。財産の全体像が見えると、遺言書に何を書くべきかが自然と見えてきます。
  2. 法定相続人(誰が相続人になるか)を確認する
    配偶者・子ども・場合によっては兄弟姉妹など、誰が相続人になるのかを正確に把握することが第一歩です。
  3. 専門家に一度話を聞いてもらう
    「まだ早いかな」と思っていても、相談するだけなら何の問題もありません。早めに動くことで、選択肢が広がり、最適な方法を選べます。

ご自身やご家族の将来について少しでも不安をお感じでしたら、ぜひ一度ご相談ください。難しい話は抜きにして、「どんな状況か」を聞かせていただくだけで構いません。あなたの大切な家族を守るための一歩を、一緒に踏み出しましょう。

社労士・行政書士事務所(仙台) 監修