私の妹に相続分を主張させたくないと義父が心配しています

先月ご相談にいらした仙台市泉区在住のお客様から、次のような質問がありましたのでご紹介します。

ご質問内容:

義父の相続について質問です。

私は現在、夫の実家に私と夫と義父の3人で暮らしています。

自宅建物は夫と私の2人名義で所有していますが、建物のある土地は義父の名義になっています。

義父の相続人は、義母がすでに他界しておりますので、私の夫、夫の妹と、義父母と養子縁組をした私を含めた3人です。

先日義父に「俺が死んで、土地の3分の1を妹子さん(夫の妹・仮名)に要求されないように、遺言を残さなくてはダメなんじゃないか?」と言われました。

遺言状が有効なのかどうか、夫の妹に遺産相続を放棄する書類を書いてもらうか、どんな方法がいいのかわかりません。

夫の妹がそんな要求をしてくるとも思えませんが、「そんなことは、実際にそうなってみないと分からないものだ」と義父は言っています。

どのような手続きをしておくのがいいのでしょうか。

これまで義父母とも仲良く暮らしてきましたし、このままここに住み続けたいと思っています。

法律の相続分を請求された場合、土地の3分の1の価値で500万円にはなると思うのですが、払えるお金はありません。

宜しくお願いします。

 

ご回答内容

この度はお問い合わせくださいまして、誠にありがとうございます。

お義父様が亡くなった場合に、妹子さんが相続分を主張することは理論上可能です。

ご本人にその気がなくても、当人の周り(配偶者など)がヤイノヤイノ囃し立てる可能性はあります。

 

そこで検討されるのが「生前に贈与してしまう」方法と「遺言書」を作成する方法ですが、生前贈与の場合には贈与税が問題になると思われます。

 

暦年課税(*1)では年間110万円までが非課税で贈与できますが、土地の評価額は(土地の3分の1の価値で500万円ということなので)全体で1500万円程度になるかと思われます。

(正確な土地の評価額を算出する必要がありますが、ここではお申出の額を参考価額として採用しています。)

 

(*1)暦年贈与

毎年1月1日から12月31日まで(暦年)の間に贈与された金額を算出し、受取った額

が110万円以下なら非課税、110万円を超えていたら課税するという制度です。

 

仮に義父様から、旦那様と奥様で2分の1ずつ贈与を受けた場合、750万円分の価値をそれぞれ贈与してもらうことになります。

これを計算すると、750万円 - 110万円 = 640万円となります。

この表に基づいて単純計算で試算した場合、一人当たりの額は【国税庁HPより引用】(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm)

(640万円×40%) - 125万円 = 131万円となります。

(※あくまでも試算ですので参考額です。正確には税務署又は税理士にご確認ください。以下同様)

 

旦那様と奥様のお二人なら262万円ということになります。

こまめに贈与をするとお得だ、という話を聞くこともあるかと思いますが、例えば3回(3年)に分けた場合はどうなるのかというと

(750万円÷3) × 15% - 10万円 = 27万5千円となり、

27万5千円 × 3回で合計 82万5千円 となり、旦那様と奥様合計で165万円です。

 

1回よりも3回に分けることで100万円弱の税額が減っています。

贈与の回数(年数)を増やせば増やすほど節税効果は高くなるのですが、その期間中に義父様が亡くなってしまうこともあり得ますので、メリットばかりではないといえます。

 

また、連年贈与(*2)の問題や、贈与する度に贈与登記と贈与税の申告が必要になる、といったデメリットもあります。

*2 連年贈与

数年間にかけて贈与することを考えて、贈与の金額と期間について、あげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)との間で合意されており、そのことが契約書などで客観的に確認できるような場合です。贈与契約書に「毎年100万円を10年間にわたって贈与する」といったような記載がある場合には、連年贈与とみなされ、最初の年に1,000万円を一括で贈与したとして贈与税が課税されます。

 

そして、贈与には「相続時精算課税制度」というものもあります。

 

簡単にご説明すると、「合計2500万円まで非課税で贈与できるが、贈与した人が亡くなった時には、生前贈与した財産も相続財産に含めて(持ち戻して)相続税を課税します」という制度です。

 

贈与の時には贈与税はかからないけれど、財産をあげた人(贈与者)が死亡して、相続税を計算するときには、相続時精算課税制度を使って生前に贈与した財産も相続財産に含めて相続税を計算することになります。

 

つまり、贈与税では課税されないけれど、結局は相続の時に課税される(精算される)ので、相続税がかかる場合には、税金を考えたときにはあまり意味のある制度とは言えないかもしれません。

 

ただし、相続税がかからないような場合、相続時に相続税で精算しませんので、結局は贈与税なしで贈与することができます。

 

お客様の場合は相続人が3名ですので、

相続財産が<3000万円+(600万円×3人)=4800万円(基礎控除額)>以下であれば相続税はかかりませんので、相続時精算課税制度を利用するメリットも出てくる可能性があります。

 

贈与以外のもう一つの方法は、遺言書を作っておくというものです。

 

遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は費用をほとんどかけずにお義父様が手書きすることにより作成できます。

 

公正証書遺言は公証人の費用含めて数万円の費用が掛かりますが、専門家が関与して作りますので、安心・確実な遺言書を作ることができます

 

なお、遺言書を作成しても(生前贈与の場合も)妹子さんには「遺留分」があります。

遺留分は法定相続分の半分ですので、遺産全体の6分の1の財産の受取りを他の相続人に対して請求することができます。

 

従いまして、遺言書を作ったからといってすべて解決するわけではないのが実情です。

遺留分は請求されれば、支払わなければならないとお考え下さい。

 

土地が1500万円相当だとすれば、150万円が遺留分になることが想定されます。

 

そしてこれもご質問の多いポイントです。

「事前に(亡くなる前に)相続放棄をしてもらいたい。」というもの。

 

ご相談者様の場合、妹子さんに事前に相続放棄をしてもらうことはできません。

 

覚書などで相続放棄を事前に約束することはできますが、法的に拘束力があるわけではありません。(法的な拘束力はありませんが、心理的な拘束力は多少期待できるかも知れません。)

 

その他、何らかの方法があるかについては、義父様の詳しいご意向などをお伺いしないとわかりませんが、基本的には、自分たちが土地を相続する代わりに、妹子さんが現金や預金を少し多めに相続するなどのことを考える必要があるかと存じます。

 

以上でご質問のご回答になっておりますでしょうか。

ご希望があれば出張の無料相談(土曜日でしたら対応可能です)も行っておりますので、

お気軽にお声がけください。

 

生前贈与なと相続対策を検討されている方がいらっしゃいましたら、社会保険労務士・行政書士 ときた事務所の無料相談をぜひご利用ください。